契約書は婚姻届
風呂から上がると仏間から話し声が聞こえる。
そっとのぞいてみると明夫が和子の写真に話しかけていた。

「ごめんな、母さん。
俺、朋香を約束通り、幸せにしてやれなかった」

写真の和子は明夫に笑いかけるばかりでなにも話さない。

「でも、朋香が押部社長と結婚するって云ってくれて、ちょっとほっとしてる。
これで工場は救われるって。
みんな、路頭に迷う心配はないって。
……父親として失格だよ」
ずずっ、僅かに鼻をすする音が聞こえた。
どうも明夫は泣いているようだ。

「洋太が怒るのもよくわかる。
朋香が冗談云って強がってるのわかってる。
でも、どうしていいのかわからない。
……わからないんだ」

和子の写真に泣いてる明夫に、そっと襖を閉めた。
明夫の気持ちが痛かった。
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