契約書は婚姻届
「あれが万理奈。
もう自分のことすらわからないのに、僕だけは認識してる」

尚一郎を認識してあれだけ怯えるなどと、彼女と尚一郎の過去になにがあったのか気になった。
そのまま、尚一郎に連れられて食堂のようなところにきたが、閑散としていて人ひとりいない。

「ここはいつも、こんな感じなんだよ。
療養所で外来はないし、見舞いに来る人も少ないからね」

「そうなんですか」

座ってて、そう云われて手近なテーブルに着くと、尚一郎が自動販売機からコーヒーを買ってきて目の前に座る。

「さて。
僕と万理奈が付き合うまでの話はしたよね。今度は、僕と万理奈が別れて、万理奈が壊れるまでの話をするよ」

悲しそうに笑う尚一郎に、胸にナイフが刺さったかと思うほどに痛みが走った。


 
ぼーっと、走る車の、窓の外を眺めていた。
尚一郎も車に乗ってからというものずっと、黙っている。
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