契約書は婚姻届
その後も、あきらかに朋香の失敗を笑いたくて呼ばれているのがわかるだけに、一挙手一投足、指先まで神経を巡らせて気を付けた。

おかげで、自子をはじめ皆、落胆を隠しきれてなくて清々した。

「いい茶碗ですね」

柑本が使っている茶碗を褒めた。
しかし、どうみてもお世辞とわかるだけに、内心、嘲ってしまう。

「ええ、とても気に入っているものよ」

嬉しそうに笑う自子に、笑うこともあるんだと変なことに驚いた。
柑本と真寿美のふたり組は盛んに、いい茶碗だと褒めちぎっている。

「朋香さんにはこの茶碗の価値、おわかりになる?」

目の前に差し出された黒い茶碗には見覚えがあった。
絶対に覚えておくようにと、野々村に叩き込まれた、数種のうちのひとつ。

「黒楽、ですよね。
しかも初代長次郎の。
美術館クラスでもし買うとしたら、数百……いえ、数千万するとか」
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