契約書は婚姻届
「だから、泣いてなんて、ひっく、ないです、って」

『朋香……。
Scheisse!(くそ!)
なんで僕はいま、朋香の傍にいないんだ!』

初めて、尚一郎の汚い言葉遣いを聞いた。
それほど自分を心配してくれているのが嬉しいのと同時に、情けない気持ちになる。

「ごめん、な、さい。
大丈夫、ひっく、とか、云っておいて、こんな」

『朋香が謝ることなんてなにもないよ。
むしろ、朋香はよく頑張ってた。
あんなこと、耐える必要なはい』

「で、でも。
尚一郎、さん、が」

『CEOになにか云われたのかい?
気にしなくていい、朋香になにもないのが一番大事だから』

「でも、でも……」

達之助は恐ろしい人間だ。
本当に、尚一郎に手を出しかねない。
それがわかっているからこそ、不安と後悔しかない。
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