契約書は婚姻届
「……はい」

尚恭は嬉しくてたまらないという風ににこにこと笑っている。
きっと、いつもひとりだろうから、にぎやかな食事が嬉しいのだろうと、このときは思っていた。


食事が終わるとリビングに移動して、尚恭はゆったりとブランデーを傾け始めた。
侑岐の前には赤ワイン。
朋香も勧められて戸惑っていると、ホットワインを用意してくれた。

「その。
……家に帰ってはダメですか?」

本邸にいる必要がないのなら、家に帰りたい。
少しでも、尚一郎の気配を感じられる場所にいたい。
それが、朋香の正直な気持ちだった。

「申し訳ありませんが、それは許可できません。
もちろん、ご実家も同じです」

険しい顔で尚恭から返されて、思わずホットワインのカップを握る手に力が入る。

「帰りたい気持ちは重々承知の上ですが、これだけはどうしても許可できません。
その代わり、欲しいものがあれば尚一郎の屋敷から運ばせますので」
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