契約書は婚姻届
「……わかり、ました」

申し訳なさそうな尚恭になにか事情があるのだろうと察し、これ以上わがままは云えなかった。
その代わり。

「その。
……しょ、尚一郎さんの枕が欲しいです」

正直に云ったものの、顔が火を噴きそうなほど熱い。

「尚一郎の枕ですか?
ご自分のではなく?」

「……はい。
尚一郎さんの、枕が、欲しい……です」

使用人が毎日カバーを替えるし、枕自体も手入れされているので、尚一郎の残り香などないのはわかっている。
それでも、なにか尚一郎の代わりになるものが欲しかった。

「朋香ってほんとに可愛いわ!」

「ぐえっ」

赤い顔で俯いた朋香に、飲んだホットワインが噴水にように出そうな勢いで侑岐が思いっきり抱きついてくる。
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