契約書は婚姻届
『はい、羽山法律事務所です』

「あの、押部……じゃない、若園ですけど、そちらから多額の振り込みがされてて、なにかの間違いじゃないかと思うんですけど」

『少々お待ちください』

保留音のあいだ、別に悪いことをしているわけじゃないのに、手のひらはじっとりと汗をかいていた。

『お電話代わりました、羽山です。
昨日、交わした契約を元に、押部様からの離婚の慰謝料を所定の金額、振り込ませていただきましたが』

「慰謝料、ですか?」

昨日、尚一郎は慰謝料を請求されると困るから、この書類にサインしろと云ったのだ。
なのにどういうことだろう。

『はい。
今回と同じ金額をあと二回、振り込むことになっております。
それで、完了になります』

「その……どういうこと、ですか」

説明も聞かずにサインしたことを後悔した。
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