契約書は婚姻届
そうすればこんな気持ち悪い展開にはならなかった。

『所定の金額、慰謝料を渡す代わりに、今後一切、押部尚一郎様と関わらない、そういう契約になっております』

「これ、返すことは……」

『できませんね』

どうしてそこまでして尚一郎が自分と手を切りたいのかわからない。
慰謝料としてもらったお金は手を着けずにおこうと朋香は決めた。



夜、帰ってきた明夫から、弁護士の件について結論を聞いた。

「頼みたいのは山々なんだが、金がな……」

オシベへの融資の返済に賠償金だけじゃない。
ほとんどの企業から契約も切られ、売掛金回収の催促を受けていた。
工場を畳んで売り払ったとしても、多額の負債が残る。

……お金があれば。

ふと思い出すのは、昼間見た、自分の通帳。
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