契約書は婚姻届
侑岐に別れろと迫られたあのとき、尚一郎はどんな気持ちだったのだろう。
朋香に自分の気持ちを証明するために、朋香以外の人間とは絶対に結婚しない、朋香との結婚を認めてもらえるのなら相続の一切を放棄するとの書類まで作ってサインしたのだ。

――書類は尚恭預かりで有効にはなってないが。

「だから、尚一郎が幸せになる気になったんだって、喜んでたのに……」

「侑岐さん……」

悲しそうに目を伏せた侑岐に、朋香も俯いてぎゅっと手を握りしめた。

……尚一郎さんと会って、直接気持ちを確かめたい。

けれどもう、朋香にその権利はない。


食事をして帰ろうと、鉄板焼きのお店に連れて行ってくれた。
個室に案内されたとたん、朋香の足が止まる。

「お久しぶりです」

――そこで待っていたのは、尚一郎の秘書の犬飼だった。
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