契約書は婚姻届
「今日は朋香さんに頼みがあってきました」

落ち着かなくて食前酒のシャンパンを口に運ぶが、ちっとも酔えない。
朋香の方だって聞きたいことはたくさんあるのだ。
けれど、口にしていいのか悩む。

「朋香さんの怒りはもっともです。
尚一郎もあえて、弁明する気はないのだと思います。
でも、俺の話を聞いてください」

戸惑って侑岐の顔を見るが、静かにグラスを傾けるだけでなにも云わない。
一度、静かに深呼吸した朋香が促すように小さく頷くと、犬飼は話をはじめた。



父親の死後、秘密裏に訪ねてきた尚恭に、犬飼は不信感しかなかった。

「君はオシベに、復讐したいと思わないかね」

オシベの社長で次期会長の男が、なにを云っているのか犬飼には理解できない。

「私はオシベ……CEOに復讐したいと思っている。
そのために、尚一郎を見捨てた。
それで君たちを犠牲にしてしまって申し訳ない」
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