契約書は婚姻届
いや、尚一郎の帰国に合わせて達之助がことを起こしたのだろう。

若園製作所のデータ偽装。

しかし実際に使われていたのは達之助が推す、安価で基準も怪しいものを作る会社のものだった。

すべてを若園製作所に押しつけ、さらには尚一郎への制裁を行おうとする達之助に、計画を実行するならここだと尚一郎は決断を下した。

短い間だが夢のような時間を過ごせたと、離婚届にサインする尚一郎を犬飼はただ黙って見ていることしかできなかった。


朋香と別れた尚一郎は、にこりともしなくなった。
犬飼と再会したときよりもさらに、感情を見せない。
まるですべての感情を捨て去ることを自分に課しているかのように。

そんな尚一郎を見ていると犬飼は、自分の望みは本当に正しかったのか自信がなくなってくる。

自分は――きっと万理奈も、ただ尚一郎に笑っていて欲しかったのだ。
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