ヒトリノセカイ
「あ、もしかして」
帰ろうとしていたあたしは立ち止まって振り返った。
「あ…」
矢の人。
思わず、矢の存在を確かめる。
ない。
というか、もう見えない。
「来てくれたんだ。ありがとう」
「あ、いえ、こちらこそありがとうございました。あの…よかったです。ボーカルの人、すごくかっこよかった」
彼はニッコリと笑った。
危うい感じのする笑い…
「彼女に伝えとくよ」
矢はもう見えないのに、
心臓をきゅっとひっつかまれた気がした。
いっそ、あたしじゃなくて、彼女に、その矢が見えたらいいのに。
あたしには、何もできないのに。