【長編】戦(イクサ)林羅山篇
大坂城、台所
 真田幸村は家康の本陣に突入す
る前に、子の幸昌を大坂城に向か
わせていた。
 大坂城には淀、秀頼と大野治長
の部隊が待機していた。
 治長も淀と秀頼が遁れることは
承知して、その時を待っていたの
だ。
 幸昌は三人の前に着くとひざま
ずいた。
「家康本陣への攻撃が始まりまし
た」
 治長が応えた。
「あい分かった。淀殿、秀頼様、
行きましょう」
 二人は無言で幸昌に一礼して治
長の向かう後に続いた。
 役目を終えた幸昌は父のもとに
戻ろうとしたその時、治長が声を
かけた。
「幸昌、そなたも来い」
 幸昌は一瞬迷ったが、秀頼の手
招きで従うことにした。
 城内にある台所の周りは治長の
部隊が警護していた。
 台所の中は通路を掘った時の土
が残され、台所とは分からない荒
れた状態になっていた。そこに治
長、淀、秀頼、幸昌が入った。
 淀、秀頼はすぐに上に着た物を
脱ぎ、領民のような姿になった。
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