【長編】戦(イクサ)林羅山篇
武士の知恵
「武士の知恵」
「さよう。兵法はなにも戦うため
だけに用いるものではありませ
ん。秩序がなく乱れたところに秩
序をもたらし障害を取り除くこと
にも利用できます。これからはそ
うした武士の知恵を教化しなけれ
ばならないと私は思っているので
す」
「惺窩先生、どうか私にもその知
恵をお授けください」
「いっしょに学びますか」
「はい」
「羅山、そなたもこれからは少し
は暇になろう。丈山殿のように武
士としてどう生きるべきか悩んで
おられるお方がこれからは沢山現
れるであろう。そのお方らの力に
なりなさい」
「はい、私もまだまだ多くを学ば
なければなりません。いっしょに
学んでまいります」
「道春。大御所様がそなたに与え
た号は、これからのことを予期さ
れていたのかもしれんな」
「誠に、今思えば権現様と呼ばれ
るにふさわしいお方でした」
 三人は一時、談笑して別れ、し
ばらくして丈山は禅の修業を辞め
惺窩の門人となった。
 道春は秀忠が諸大名を次々と改
易したため、次は自分かと恐れを
なした諸大名や旗本らが、家康の
侍講を勤めていた道春に学んでい
れば改易を遁れられるのではない
かと道春に侍講を求めた。そのた
め道春は東奔西走する慌ただしい
毎日となっていった。
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