【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天皇の笑み
「あはははは、お爺様はそうであ
りましたね。お爺様はどうやって
天下人になったのでしょう」
「私には分かりかねますが、いつ
もお爺様は、大望を果たすには長
生きすることじゃ、と口癖のよう
に申しておりました」
「長生きですか。どのようにすれ
ば長生きできるのでしょう」
「これもお爺様が申しておりまし
たことですが、質素に暮らし、粗
食を心がけて庶民の手本とならね
ばならん、と」
「なるほど」
「それを美味しそうな御菓子を目
の前に置かれて聞かなければなら
ないのです。大変辛くございまし
た」
「あはははは、それは辛いでしょ
うね。良いお話をお聞きしまし
た。それでは私はこれで」
「あの、この絵巻物をお持ちくだ
さいませ」
「いえ、ここに……。ここに度々
来て、見させてもらってもよろし
いですか」
「はい、もちろん。そう、その時
には私に公家の作法などお教え願
えませんでしょうか」
「よろしいですよ。ではまた」
 天皇は会釈をして去った。その
後姿に和子はいつまでも平伏して
いた。
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