【長編】戦(イクサ)林羅山篇
信勝と信澄
 小早川秀秋、稲葉正成、林吉勝
がしばらく談笑しているとそこに
吉勝の弟、信時に連れられて信勝
がやって来た。
 信勝は長崎から帰ってすぐこち
らに向かったようで旅装束のま
ま。日に焼けたその顔は眉が凛々
しく引き締まり、眼光鋭い、才知
溢れる青年の姿だった。
 秀秋、正成でさえ身構えるほど
の威圧感を放っていた。
 正座した信時に促されて信勝も
正座した。
「お初にお目にかかります。わが
子、信勝改め信澄を連れてまいり
ました」
「兄上、お初にお目にかかりま
す。弟の信澄、ただいま長崎より
帰ってまいりました。以後、よろ
しくお願いいたします」
「信澄、無事に戻ってなにより。
こちらこそよろしく頼む」
 秀秋が言い終わると同時に信澄
が話しはじめた。
「ときに兄上、兄上は…」
「これこれ、会って早々、失礼
じゃぞ」
 吉勝は信澄が何を話し出すかヒ
ヤヒヤして慌てて止めようとし
た。
「よい。これから兄弟として仲よ
うしていきたい。存念があっては
それもできんだろう。わしは信澄
の思いが聞きたい。ぜひ話しても
らいたい」
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