【長編】戦(イクサ)林羅山篇
忠長、自害
 家光に逆らう諸大名はいなかっ
たが、秀忠という大きな後ろ盾が
なくなり、相次ぐ改易で不満が芽
生え始めていた。特に外様大名に
は動揺があった。そこで家光は外
様大名の筆頭、加賀、前田家を後
ろ盾とするため、水戸、徳川頼房
の娘、大を養女とし、前田利常の
長男、光高に嫁がせることを決め
た。
 利常の正室は家光の姉、珠だっ
たこともあり、前田家に異存はな
かった。
 このことで家光は道春を呼ん
だ。
「道春、先に私が養女とした大姫
と加賀の前田光高殿との縁組が
成った。そこで婚礼の次第書と婚
礼記をそなたに書いてもらいた
い」
 次第書は婚礼の儀での手順を書
いたもので、崇伝の仕事が道春に
まわってきた。
「はっ」
 婚礼の儀は十二月に盛大に行わ
れ、家光は一安心していた。とこ
ろがそこに思わぬ知らせが入っ
た。信濃、高島城で弟、忠長が自
害したのだ。
 家光はすぐに稲葉正勝を呼び、
自害した経緯を調べさせた。正勝
にしても他人事ではなかった。忠
長の側には弟、正利が仕えていた
からだ。
 家光はこの時、初めて忠長の気
持ちを見誤っていたことを悟っ
た。
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