【長編】戦(イクサ)林羅山篇
主君と家臣
 争論の前日、家光は主だった重
臣と道春を呼び協議した。
 過去、朝鮮に送った国書は崇伝
が起草し「日本国源秀忠」あるい
は「日本国主」と記名していた。
それを義智、義成が「日本国王源
秀忠」「日本国王」と改ざんした
のだ。
 家光はこのことについて道春に
意見を求めた。
「国王とは帝であり、朝鮮では今
まで送った国書はすべて帝の言
葉、あるいは徳川が帝になったと
受け取りましょう。もしへりく
だった文章を書いていたとすれば
朝鮮はこの国をさげすんでみてい
るかもしれません。しかしいまさ
ら訂正するわけにはまいりませ
ん」
「宗家が余計なことを」
「上様、お恐れながら義成殿は亡
き父、義智殿に倣うしかなく、こ
の国と朝鮮の対面を保とうとした
のです。国王の家臣からの書簡な
ど朝鮮は受け取らなかったでしょ
う。それを考えれば止むを得な
かったと思われます」
「それは分かる。しかし今後をど
うするかだ。まあそれは後々のこ
と。問題は調興だが、己が主君に
取って代わろうとする魂胆が見え
透いておる。それに私を甘く見て
いるようにも思える。皆はどう
じゃ」
 皆、相槌を打ち、調興を処罰す
ることが決められた。
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