【長編】戦(イクサ)林羅山篇
家光の側室
 寛永十四年(一六三七年)
 家光は激務から病の床について
年の初めを迎えた。道春は昼夜、
家光のもとにあって漢方薬の書を
調べ、薬剤の手配を指示した。そ
のかいあって次第に回復し、予定
していた江戸城、本丸の改修を諸
大名に命じた。
 そんな波乱の幕開けだったが、
家光には嬉しいことがあった。側
室にした振が子を身ごもっていた
のだ。
 振は春日局の養女で、部屋子と
して奥御殿に入り女中奉公をして
いた。それを家光が目に留め側室
とした。
 三十四歳にして始めての子が誕
生することに家光より家臣たちが
沸き立った。家光に近い家臣でさ
え奥御殿のことは秘密とされ、側
室がいるなど思っても見なかった
ので、家光は女嫌いと噂されてい
たのだ。そのため奥御殿を取り仕
切る春日局の存在をいぶかしがる
者もいた。
 閏三月
 振は女の子を産み、千代と名付
けられた。
 嫡男ではなかったことに家光は
がっかりしたが、家臣たちは次に
期待が持てると喜び、これを機に
奥御殿は大奥として整備されるこ
とになった。誰も側室となった振
が春日局の養女だとは知らなかっ
た。
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