【長編】戦(イクサ)林羅山篇
ゼウス
「そのゼウスとかいうそなたらの
天主がはたして信長公、秀吉公、
大御所様と同じくする者か誰にも
分からないではないですか。その
者は争いの火種になるだけかもし
れん」
「ゼウス様は万物を創造された神
です。自らお造りになった物をむ
やみに壊したいと思うはずがあり
ません。ただ、造った物は時がた
てば古くなり、用のなくなるもの
もありましょう。それらを取り除
いているに過ぎません」
「取り除いた物はどうなるのです
か」
「どうなると申しますと」
「我らの信仰では死後再び生まれ
変わるのだが、そなたらはどう説
かれているのですか」
「死んだ物は土にかえるだけで生
まれ変わったりはしません」
「では天主も死ねば二度と生まれ
変わったりはしないということ
か」
「ゼウス様に死はありません。永
遠不滅です」
「ではその天主を造った者は誰で
すか」
「ゼウス様を造った者などいるは
ずはありません。それが神なので
すから」
「万物は天主が造ったというが、
その天主は造られたものではない
と言い、万物は死ぬと二度と生ま
れ変わらないが、天主は死ぬこと
さえないと言う。これはそなたら
に都合のいい作り話としか言いよ
うがない」
 ハビアンは困り果てた。神の生
みの親を言い出せばどこまでいっ
てもきりがない。唯一絶対の存在
を説くことなどできるはずがな
かった。
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