【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天の本体
 どう説明していいか考え込むハ
ビアンにたたみかけるように羅山
は問いただした。
「では天の本体と天主とではどち
らが先にあるのですか」
「天主はもとになるもので前にあ
り、天の本体は天主の用いるもの
で後にあります」
 羅山は念を押すように部屋に
あった器を指差して言った。
「そこにある器は天主と同じで、
その器を作ろうと考えることが天
の本体と同じだと言える。だから
天主は後で天の本体こそ前になり
ます」
 それに同意できないハビアンは
別の例えで反論した。
「それは違います。よいですか、
燈火があって光が生まれます。燈
火は天主であり前にあり、光が天
の本体であり後ではありません
か」
「いやいや、燈火こそ天の本体で
あり、光は天の本体がただ放って
いるだけにすぎません」
「ならば羅山殿がおっしゃった器
を作ろうと考えることは一念が起
きたことであり、その前に無念無
想の境地があります。それが天主
と同じです」
「無念無想は文字通り何も無いこ
とでそれを天主と同じとは、天主
が存在しないといっているような
のもです」
 羅山に加勢するように松永貞徳
が口をはさんだ。
「いや、あはははは。これは愉
快。羅山先生が疑問に思われるこ
とは核心をついて高尚だが、それ
に対するハビアン殿の答えは未熟
としか言いようがない」
 これで論争はひとまず休憩とな
り、羅山は小用で席をたった。
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