【長編】戦(イクサ)林羅山篇
家康の策略(一)
 家康は落ち着くと且元に聞い
た。
「ところで、わしにはどうも解せ
ぬことがある。こたびの豊臣家の
浪人集めじゃ。あまりにも多くは
ないか」
「はっ、それはもっとものご懸
念。お恐れながら、方広寺の一件
で大御所様のお怒りについて触れ
回ったところ、思いのほか浪人が
多く集まったものと思います。し
かしこれは兵糧攻めにするには好
都合ではございませぬか」
「それなのじゃが、わしは兵糧攻
めをせんつもりなのじゃ」
 且元と側で聞いていた道春が意
外といった顔をした。
「もちろん、あの大坂城の構えを
考えれば兵糧攻めが上策じゃろ
う。難攻不落と言われた小田原城
を秀吉公と兵糧攻めにしたが、あ
の時は北条を屈服させれば良かっ
た。しかしこたびは屈服させただ
けではすまん。豊臣家を討ち滅ぼ
さねばならんのじゃ」
「お恐れながら、それならばこそ
兵糧攻めにして秀頼様、淀殿の命
と引き換えに他の者を許すと申せ
ばよいのではないですか。小田原
城攻めの時もそのようにされたの
は大御所様のご尽力ではないです
か」
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