【長編】戦(イクサ)林羅山篇
家康の策略(二)
「確かにそうじゃ。それで天下統
一もなった。一時の平安にもなっ
た。しかしそれはうわべだけのこ
とじゃ。諸大名の力は益々盛んに
なり、領民を力でねじ伏せる恐怖
の治世じゃ。秀吉公はそれをあお
るように朝鮮出兵を強行された。
その結果はどうじゃ。出兵した諸
大名の領地は荒れるにまかせ、東
と西との関係を悪化させただけ
じゃ。わしはな本当の泰平の世を
見てみたい。それを子や孫に残し
たい。関ヶ原はその大一歩であっ
た」
「恐れ入りました。大御所様の遠
大なる計。且元の小心、恥じいる
ばかりにございます。願わくばこ
の先、どのように大坂城を攻めら
れるのか、大御所様のご内心をお
聞かせいただきとうございます」
「よかろう。まず短期決戦にで
る。頃合いをみて和睦の使者を送
る。和睦の条件は城の堀を埋める
ということだけじゃ。それが成れ
ば再度、出兵し最終戦を仕掛け
る。もし和睦が成らん時は、城に
毒を放つ。毒は蛇や雀蜂に刺され
た時のように苦しみ死ぬもの
じゃ。これを使うとしばらくは誰
も城に近づくことができん。犬や
猫を放って様子を伺い、城を取り
壊す」
「これは前代未聞。そのようなこ
とをすれば、誠にお恐れながら大
御所様のご威光が失われるので
は」
「わしの威光など、どれほどのも
のか。わしはな、天下泰平がなる
のなら、どのような雑言もあびる
つもりじゃ。わしひとり鬼畜と
なってすべてを背負ってあの世に
行くつもりじゃ」
 且元は感激して言葉にならず、
また泣き始めた。
 道春もさすがにこの策略のすご
さに家康の大器に押しつぶされそ
うになる思いで、頭をたれた。
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