大剣のエーテル
私は、自分の心臓がドキドキと高鳴っていることに気がついた。
私を“悪魔の子”だと呼ばない人と出会い、話が出来る。
そんなこと、今まで無かった。
今日だけでも…、普通の人の生活を送ってみたい。たとえそれが、多少ズレていたとしても。
「…“旅の話”、ねぇ…。」
琥珀の瞳が私を映した。
ぽつり、と呟かれた言葉に緊張が高まる。
するとその時、彼は、すっ、と道端に置かれた鞄を手に取った。
リュックをスーツケースの取っ手に通し、異形な風呂敷を担ぐ彼をぽかん、として見つめていると、ゆっくりと立ち上がった彼は私を見ながら口を開いた。
「…本当にそんなのでいいのか?宿代がそれで足りるなら、一晩中付き合ってやるよ。」
(…!)
一瞬、時が止まった。
(…夢…じゃ、ないよね?私の家にお客さんが来るなんて。)
「…どうした。まさか、冗談のつもりだったのか?」
彼の言葉に、はっ!と我に返って立ち上がる。
「いえっ、撤回なんてしません…!歓迎します!」
私は、胸の高鳴りを抑えられないまま、大荷物のスーツの彼を連れて歩き出したのだった。