俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
そこへ――。

コンコン、と扉をノックする音が聞こえてきた。
私も大河も、磁石の同極がはじかれるようにざっと距離を取る。

「……誰だ」

「篠原です。戻りました」

大河はふっと短く息を吐き観念すると、私から離れ、執務卓をぐるっと回って席についた。
私は急いで乱れたシャツを整えながら、外された胸もとの第一、第二ボタンを留めた。

「入れ」

「失礼致します」

篠原さんは扉を開けると、見本のような角度で綺麗に一礼し、大河のもとへ進み出た。

「……会長から、昨日の会議の懸案を預かってきました」

脇に抱えたファイルから該当の書類を抜き取り、大河の前へと置く。

「いい加減、手渡しではなく電子メールを使えと親父に伝えといてくれ」

「手書きが一番伝わるのだそうですよ」

見ればその書類には赤字でなにかが書き加えられていた。会長の直筆なのだろうか。

「……ご苦労だった。先に目を通しておいてくれ。あとで確認する」

「わかりました」

篠原さんは書類を回収すると、社長の前から身を引いて、秘書の専用デスクに向かう。
その道すがら。

「それと、天宮さん――」

「は、はい」

篠原さんの視線が突然私の方を向いたので、びくりとして直立した。
彼は相変わらずの涼しい瞳で、私の胸もとを指差す。

「シャツのボタン、かけ違えていますよ」

「えっ……!?」

慌てて胸もとに触れると、確かに彼の指摘通り、一番上と二番目をかけ違えていて、シャツがくしゃっとよれていた。

頬がいまだかつてないくらいにカァッと熱くなる。
篠原さんが部屋を出る前までは正しくボタンをかけていたのに。これではいない間になにをしていたか、バレバレではないか。

わたわたとボタンを直していると、その様子を見ながら大河が、はぁぁ、とあきれたようなため息をついた。
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