chocolate mint
「菅原さん、お客様の前ですよ」


まだお客様のお見送りをしている最中だ。


接客中だと断ると、ぐっと僕を睨み付けて、そのまま踵を返して事務所の方へと歩いて行ってしまった。



『…………お客様の前でスタッフの名前を呼ぶのは、ルール違反でしょうが』



顔に笑顔を貼り付けてお客様を見送った後、僕は誰にも聞こえないくらいの小声で、有紗さんへと毒づいた。



新店舗を立ち上げる事は、まだスタッフには話をしていない。


つい先日、マネージャーの有紗さんと橘さんだけには和希さんも立ち会って青木さんと僕とで、直接話をしていた。



ーーその日以来、有紗さんの僕に対する態度が180度変わってしまった。



最近だと接客で注意される事なんて全く無かったのに、毎回何かしら言いがかりに近いような注意をされるようになった。


それに、今日みたいに青木さんとの話し合いに有紗さんも強引に入り込んできて、自分のコンセプトを青木さんに提案するような事もあって正直参っている。


和希さんは何か考えがあるのか、それとも妹相手には注意をしにくいのか静観の構えだし、青木さんに至っては注意どころか有紗さんの存在を受け入れているような態度で接している。


有紗さんが冷たいのは僕にだけだ。


たぶん彼女がこの独立話で納得がいっていないのは、パートナーとして自分が選ばれずに、自分より下の立場の僕が選ばれたという点だけなのだろう。

< 64 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop