chocolate mint

結局今日も有紗さんが一人で勝手にペラペラと話し出して、話し合いは何一つ進まずに終わってしまった。


「ここ、僕が片付けておきます」


厨房の責任者の青木さんにだって、僕にだって他にも山ほど仕事がある。

事務所の片付けをすると伝えると、青木さんは急いで店舗の方へと戻って行った。


今日は21時までの勤務だったけど、ラストまで時間を割いて話し合いたい事が色々とあったのに……


「ーーねぇ、裕介」


「……何ですか?」


……まだいたのか。片付けを手伝う気が無いならさっさと出て行けばいいのに。


心の中だけでそっと毒づいて、目の前の有紗さんに視線を合わせた。


「何睨んでんのよ。態度悪いわね」


態度が悪いのは否定しないけど、睨んでなんかいない。腹の中では何を考えていようと、僕は顔に笑顔を張り付ける事ができる。


こんな言いがかりもいつもの事だ。


有紗さんには何年も教育係として指導をしてもらったから頭が上がらないし、ここで有紗さんに楯突くよりは受け流してしまったほうが長引かないのは経験上分かっていた。


「睨んだつもりは無いですけど、そう見えたならすみませんでした」


『すみません』だけだと睨んだ事を肯定してしまう。そこもしっかりと否定しておかないと、後々責められる材料になってしまう。


顔には、申し訳なさそうな表情を貼り付けて。


そんな人の心の裏側ばかりを無意識に考えて、自分の感情とは違う表情をしたり、笑顔を振り撒いていると、時々本当の自分の感情が分からなくなる。

< 65 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop