chocolate mint

「何ぼーっとしてるの?何か言ったらどうなの!」


壁の向こうから聞こえる声は、段々と苛立ちを含んだものに変わっていった。



ーー『裕介さん』



一度も名乗った事が無いのにいつの間にか名前を知られて、毎日毎日店に現れて、あの独特な甘ったるい声で話しかけられた。



苦痛だった日々を思い出して、胃の奥がギュッと縮む。



僕の前では彼女はいつもふわふわと女の子らしく振る舞っていて、こんなに攻撃的な声は聞いた事が無かったけど、その声は僕がもう二度と聞きたくないと思っていた声で間違い無かった。



……信じられないけど、たぶん同窓会に現れて菊井がプロポーズしたっていう女は、彼女……川嶋望の事なんだろう。



香織ちゃんと付き合っていたはずの菊井が、いつ、どんな経緯で彼女と出会って偽装のプロポーズをする事になったのかは分からない。



だけど菊井の気持ちとは違って、彼女の方は菊井を本気で好きなんだっていうのは、表情を見なくてもその必死な声だけで十分に伝わってきた。


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