私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
「雅人さん、陰気くさいからシャンソンはやめてくれって何回言ったらわかるんだよ」

入り口のドアが開かれたかと思うと、見覚えのある男性がぶつぶつ文句を言いながら店に入ってきた。

あ、この人――。

百八十センチはある長身に、クセのなさそうなさらっとした黒髪が印象的で一瞬、芸能人が入ってきたのかと思うくらい、私はその姿に目を奪われてしまった。

「あ、慧! やっと帰ってきたな。ほら、明日からうちで仕事してもうことになった新人の花岡さんだよ。もう採用しちゃったから」

雅人さんの話しを聞いているのかいないのか、彼は無言でカウンター内の奥にある有線のチャンネルをクラシックに変えた。買い出しに行っていたのか、抱えていた大きな紙袋を置いて、ちらりと私を見ると鋭い視線を投げてきた。

う、なぜか睨まれているような――。
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