私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
「……お前、本気でバリスタになりたいわけ?」

「え?」

唐突なその質問に、私は思わず目をぱちくりとさせた。

石堂さんは、カウンターに寄りかかりながら片肘を付いて、気だるそうに琥珀色のウィスキーの入ったグラスを傾けている。

「もちろんです。経験も下積みもありませんけど……石堂さんからしっかり学べたら、私きっと凄腕のバリスタになれると思います」

「ぶっ、なんだそれ」

意気揚々と語る私に、石堂さんが噴き出す。

な、なんか変なこと言ったかな――?

「厳しいけれど……石堂さんの教え方、わかりやすくてすごく勉強になります」

ぽつりとこぼれた私の本音。

「……俺の、教え方……ね」

一瞬だったが、なぜか石堂さんの瞳に影が過ぎったように見えた。それは瞬間的に垣間見えた憂いのような感情だった。

石堂さん――?

すると、指の長い石堂さんの手がぽんっと私の頭に乗せられた。

「まぁ、せいぜい頑張れ……俺には、時間がないんだ」

「え……? 今、なんて?」

時間が、ない……って言った――?

「なんでもない。独り言だ。ほら、早く帰れって、遅くなるだろ」

「は、はい。じゃあ、お先に失礼します」

いつも愛想のない石堂さんから“頑張れ”なんて言ってもらえるなんて思ってもみなかった。ましてや、頭に手を乗せられるなんて……。

先ほどの瞬間を思い起こすと、ドキドキと胸が高鳴る。石堂さんの手は大きくて温かかった。けれど、やっぱり石堂さんの言葉が気になってしょうがなかった。
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