ハニートラップにご用心

今から土田さんの自宅に戻るとなると日付けが変わってしまうとのことで、急遽このままホテルに泊めてくださることになった。

蘭さん自ら案内してくれた広い客室。部屋やホテル内の設備の説明を簡潔にして、蘭さんが立ち去るために扉を閉める直前、にっこりと綺麗に笑いかけてきた。


「早く孫の顔を見せてちょうだいね」

「やかましいっ!」


土田さんが少し語気を荒らげて言うと、蘭さんはまあ怖い、なんて言いながら楽しそうに喉を鳴らして扉を閉めた。

そして改めて部屋を見返すと、応接室と同じようなロイヤルな雰囲気には似つかわしくないものをベッドの上で見つけて、私は苦笑いをした。


「頭が痛い……」


同じことを土田さんも思っていたらしく、深いため息をつく。

私は靴を脱いでベッドへと近寄った。本来の枕に重ねるように置かれたイエスノー枕。きっちり両方イエスを表にされている。

なんとなく気恥しくて二人分のその枕を引っ掴んで、ソファの方に投げ捨てた。


「……?ソファで、って意味か……?」


私の行動を、私の意図とは違う解釈をした土田さんの顔面にノー、の面を向けて枕を投げ付けた。綺麗に受け取られたけど。


「そ、それにしてもお母さんとそっくりですね」


なんとか話題を逸らそうと先程から思っていたことを口にする。

すると、土田さんは眉をひそめながらこちらに歩いてきたかと思うと、ソファの近くにある化粧台の鏡を覗き込んだ。


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