ハニートラップにご用心
「このワンピース、いやらしいわね」
「へっ、あ、ありがとうございます……?」
ベッドに座る私の前に跪くようにしている土田さんの指先が、私の着ているワンピースの裾をつまんだ。当然帰る時は私服に着替えなくてはいけないから、脱ぎ着のしやすいワンピースにした。普段私がスカートタイプの服を着ることが少ないから、物珍しさもあるんだろうか。
一応褒められたんだと認識して、首を傾げながらその言葉に対する感謝を述べると、土田さんが怪しく笑った。
「千春ちゃん、疲れちゃった?」
「え?いえ……正直、結婚式の興奮で目が冴え……ちょっと待ってください、土田さん」
ワンピースを捲り上げて、土田さんの大きな手が膝を撫で上げる。
「恭也、でしょ?」
いつもの癖。ずっと土田さん、と呼んでいたから未だに名前で呼ぶのに慣れていない。
「きょ、恭也……さんっ……」
勇気を出してボソボソと名前を呼べば、土田さ……恭也さんが、にっこりと笑って私の手首を掴んで立ち上がった。
「え!?」
そのまま覆いかぶさってくるから焦って手を振り払おうと抵抗すると、そのまま恭也さんは掴んだ私の手首を引き寄せて軽く噛み付いた。
「あ、あの……せめて、せめて!電気を消してくれませんか……!?」
「ダーメ」
必死の訴えも虚しく、私の抗議の声は全て恭也さんの唇に奪われた。
彼の指先や唇が私の身体中を優しく撫でて、心も頭も高ぶった熱で溶けてしまいそうになる。何も考えられなくなるくらいに甘やかされて、愛される。
何度目かの口づけのあと、ようやくいつもある隔たりが無いことに気が付いて、私は弱々しく声を上げた。
「恭也さん、その……」
私の言いたいことが一瞬でわかったのか、恭也さんは口角を上げてにやりと笑ったかと思うと私の頭を優しく撫でた。
「もう必要ないだろ?」
その言葉に、じわりじわりと胸が焼かれるような感覚に陥る。
私達、本当に夫婦になったんだ。
この人と出会えたこと、こうして触れ合えていることの奇跡に近い色々な出来事を思い出して、感動がまた呼び覚まされる。
「恭也さん、大好きです……」
涙で滲んで彼の表情を確認することはできないけど、いつものように優しく微笑んでくれていることだけはわかる。
好き、大好き、愛してる。
いくら声に出しても足りないくらいの気持ちを込めて、自ら彼の唇に口づけをした。

