ハニートラップにご用心

「め、面接官の……!」

「覚えていてくれたんだ?そうだよ、君を面接した総務部人事担当、山本明だ」


就職試験の二次選考、役員面接のあるその日に、私は広い社内で迷子になっていた。案内に従ってグループで移動していたところ、人よりプレッシャーに弱い私は腹痛によりお手洗いへと離脱した。

そこから面接会場がわからなくなり、途方に暮れて泣きそうになっているところ通りかかった社員の山本と名乗ったこの男の人が案内をしてくれたんだ。


「そ、その説はお世話になりました」


同じグループの人達が次々と面接を終えて、私の番になり入室したところ、私は驚きで目を見開いた。道案内をしてくれたこの人が、面接官として目の前にいたからだ。

数秒停止した後、「お掛けください」の合図で意識を現実に戻し、同時に混乱で椅子に足をぶつけたんだっけ。そのことも鮮明に覚えている。


「また会えると思わなかったよ」


面接受験者として目の前に立つ私を見て、言い放ったあの時のセリフがここで再生される。騒がしい場所は苦手だけれど、恩人がいるとなれば話は別だ。

私と山本さんはそれからいくつか他愛もない話をした。いつの間にか手のひらに握らされていたメモ帳と記号の羅列に、私は瞬きをして山本さんを見た。


彼は内緒にするようにと言うように、唇に人差し指を当ててテーブルの上にある自分のスマートフォンの画面をカツカツと爪先で叩いてみせた。連絡をしろと言うことだろうか。


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