ハニートラップにご用心

――そして、それぞれがアルコールが回ってきてテンションもいくらか落ち着いて来た頃、男性陣と女性が色恋話に花を咲かせていた。

その内容は少しずつ過激になっていく。


「二十歳過ぎて処女はちょっとなー。かといって遊び慣れてるのも嫌だなぁ」

「やだー、やめてよぉ」


二十歳過ぎたド処女がここにいるんですが。

その言葉を飲み込んで、私は油を反射して茶色く煌めく肉の塊を口の中に押し込んだ。じんわりと舌の上に広がっていく肉の旨みを逃がすまいとゆっくりと鼻で息をしながら奥歯で噛みしだく。

お酒の席となれば避けられないのがこういった下品な話だ。私はできるだけ聞かないようにと、意識を口の中にある鳥の唐揚げに集中させた。


「山本部長はどう思います?処女ってめんどくさくないですか」


話はいつの間にか山本さんに飛び火していて、思わず私は心臓を跳ねさせる。

その質問を振ってくるお前が一番めんどくさい、と言いたげに思い切り気だるげな態度の山本さんを視界の端に収めながら唐揚げを飲み込んだ。


「あー……そうかな」

「バカ、山本さんほどのモテ男がわざわざ処女なんか相手にするわけねえだろ」


話を振った人とはまた別の人がそう言って、小さな笑いが生まれる。山本さんはそれを否定も肯定もすることなく、苦笑いをした。

二個目の唐揚げを口元に運んだまま時が止まったように固まっていた私を、なぜだか一瞬だけ山本さんが見た気がしたのだった。


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