ハニートラップにご用心
「でも、毎日生活する場所で可愛いものばかりじゃ疲れちゃうでしょ」
「はあ……」
「例えばこれが壁紙だと思って、想像してみて」
それ以外何も映らないくらい視界いっぱいにまで寄せられたハンカチ。このピンクの小花柄に囲まれる生活。
プライベートで嫌なことがあった時、仕事が上手く行かなくて落ち込んだ時――確かに、落ち着きたい時には不似合いだ。
この人が出してくる小物は可愛いものばかりだから、家までそんな雰囲気だと想像していたのでなんだか拍子抜けしてしまった。
「そうですね……想像してみて、よくわかりました」
「ふふ」
視界を埋め尽くしていたピンク色が一気に離されて一瞬視界がチカチカと点滅した。
何が面白いのかはわからないが、土田さんは上機嫌な様子で宙に掲げた状態のハンカチを器用に四つ折りに戻した。
それから思い立ったようにそうだ、と人差し指を立てたかと思うと布が翻される音と共に視界が暗くなった。
「わっ、何ですか!?」
前触れなく頭に被せられた布を取り払おうとじたばた暴れていると、ガシッと効果音が付きそうなくらいの勢いで大きな両手で頬を挟まれた。そのまま半ば強引に上を向かされて、顔にかかっていた布が後ろに落ちる。
クリアになった視界。真っ先に目に飛び込んできたのは、土田さんの整った顔だった。
「千春ちゃん」
こつん、と額と額がぶつかる。
鼻と鼻がくっついて吐息が唇にかかりそうなほどの距離。ふわりと香ってくる整髪料の香りに脳みそが溶け落ちそうなくらい、顔が熱くなる。
相手がいくら普段同性のように接していても見目は麗しい成人男性。こんなふうにキスでもするのかと言うほどに近づいて、何も感じるなという方が無理だった。