ハニートラップにご用心
「ちょうど良かったです。朝ご飯どうしようかなって思ってて……土田さん?」
寝起きが悪いのか、土田さんは眠たそうにまぶたを擦りながら、どこか上の空でこちらに近付いてきた。私の問いかけが聞こえていないのか、土田さんは返事をせずに私の座るソファの隣に腰を下ろした。
「コーヒーか何か入れますか?」
眠気覚ましのため、気休めにはなるだろうと土田さんの顔を覗き込んでそう言うと、長い腕が伸びて来て抱きしめられた。
「千春ちゃん、可愛い」
そして、冒頭に至る。
「ちょっと、何ですか……」
驚いて慌てて引き剥がそうとするけど体幹のバランスが良い彼の姿勢は簡単には崩れない。衣服から香る柔軟剤と私の頬をくすぐる黒髪からするシャンプーの香りとで私の心臓は張り裂けそうなほどに脈打った。
そのまま行為はエスカレートして髪の毛を梳くようにして頭を撫でられたかと思えば、頬や額に小鳥がじゃれついてくるように軽いリップ音を立ててキスを落とされる。
同居を始めてから不用意な行動をするのを嫌がっていたのは土田さんだし、今までここまでこんなことをされたことはない。
それこそ壁際に追いやられて逃げ道を塞がれてキスをされそうになったことはあるが、あの時は私が嫌がる素振りを見せたためか身を引いてくれた。
「千春ちゃん……手、ちっちゃいわねぇ……」
私が困惑と羞恥で固まっているのもお構いなしに土田さんは私の手を取ってふにふにと触感を確認するように何度か軽く揉んだあと、自分の頬に当てた。
「冷たくて気持ち良いー……」
よほど私の身体は熱を持っているのか、土田さんの頬と触れ合うと驚くほど熱く感じた……熱い?
違う、私が熱いんじゃない。