ハニートラップにご用心
「脱がせてくれる?」
「え?」
思いもよらない言葉に眉根を寄せるが、土田さんはお構い無しといった様子で私の手首を一瞬離して、すぐに腕を掴んで私を引き上げた。無理矢理立ち上がらされたかと思えば腕を引かれて彼の方に倒れる。
脇に手を差し込まれ、土田さんの膝の上に乗せられたかと思えば強引に手を彼の腹部へと引かれた。シャツ越しに触れた逞しい腹筋に驚いて手を引っ込めようとすれば強く手を握られ、離れることは叶わなった。
「このままじゃ風邪引いちゃう」
耳元で低く囁かれて、吐息にビクリと肩を震わせた。私は怯えながら首を横に振って、彼の手を振り解こうと小さく抵抗をした。
「できません。自分で脱いでください。着替えは持って来ますから……」
私が声を震わせながらもそう言うと、土田さんはため息をついて私の手を離した。
そのまま鬱陶しそうに濡れたシャツを脱いで床に放り投げた。コーヒーの独特な香りが鼻先をくすぐる。
「こんな状況で逃げようと思わないのね」
手は解放されたし、逃げようと思えば今すぐにだって逃げることができる。でも、私はそれをしようとはしなかった。
「俺なら何もしてこないって、まだ思ってんの?」
いつもの女性口調ではない、低い声が鼓膜を揺らす。土田さんが指先を私の顎をなぞるように添えて、顔を近付けてきた。唇の端と頬のギリギリのあたりに唇を押し付けられて、身体を固くする。
大丈夫、怖くない、怖くない。
土田さんは私をこんなふうに傷付けない。そんなことができる人じゃない。
今だって、無理矢理しようと思えば唇を奪えたのにそれをしなかったから。