ハニートラップにご用心
Side:土田恭也
ふと、半年ほど前のことを思い出した。
そこそこの月日を共に過ごした女に振られ、傷心中だった俺を追い詰めるようにデスクに置かれた、いわゆるラブレターというもの。
俺が恋人と別れてフリーになったという噂はあっという間に広がり、昼休みになれば女性社員に呼び出され告白され、断れば泣かれてとなかなかに精神を摩耗する日々を送っていた。
一体俺がどんな悪いことをしたって言うんだ。あの女には何の咎めもなく俺がこんな目に遭わなくてはいけない。
人がいない場所を求めてたどり着いた場所は屋上。フェンスに手をついてため息をついていると、背後から人の気配がして舌打ちをしながら振り向いた。
「いやー、モテるねえ。土田くん?」
お気楽に笑って片手を上げるのは、俺と同じ時期に新卒で入社してきた柊という男だった。
当初八人近くいた同期は既に俺とこいつしか残っていない。それもあってか、何かと柊とは縁が深い。
「……仕事にならない。学校感覚の奴ばっかりだな、ここは」
ここに来るまでに押し付けられたラブレターの一つを右手の人差し指と中指に挟んで柊に見えるように掲げた。
これから先俺は誰とも付き合うつもりもないし、また恋愛をしようだなんて気にもならない。
いちいち断るのも面倒だが、このラブレターを書くのにどれだけの時間と勇気が必要になったんだろうと考えると破り捨てるのもはばかられる。