ハニートラップにご用心
「俺より夜景か」
「ひえっ……!?」
思いもよらず低い声で耳たぶをくすぐられて、情けない声が出た。
慌てて振り向くとぎゅっと手を握られる。ムスッと不機嫌そうに眉根を寄せる土田さんの顔が近くあった。
「だってこんな綺麗な景色を見られるなんて、私の人生のプランに組み込まれていなかったというか……」
「何だそれ」
しどろもどろに答えた私に、土田さんが小さく笑う。
正直、こうして私が容姿端麗で優しくて、仕事もできる年上の男性――恋人にするには不足がないどころか私の身には余りすぎる素敵な男性とお付き合いをさせていただいてること自体、夢のような話だ。
心なしか出会った頃の土田さんはオネエ口調でこそあれ、今よりも冷たい表情を見せることも多く、笑う機会も少なかった。
私がミスをしても慰めるどころか怒りもしないし、まさに無関心といった様子で後処理をこなしては私に事務的な報告。当時の私と彼を見ていた人達はきっと、この二人が恋人になるなんて思ってもいなかっただろう。
「毎年見せてやるから、期待してて」
さらりとこれから何年もの時間を共に過ごすつもりでいるらしいことを言われて、私の顔に一気に血液が集中する。
私だって土田さんと別れるつもりなんて毛頭ないけど、改まってそういうことを言われるとすごく照れる。
私の親でもこんなにハッキリと我が子に愛を告げて来たことはない。自分以外の人間から愛情を受けることに慣れていないからどう反応していいかわからなくて困る。
土田さんは恥ずかしくないのかな、と思ってちらりとガラス越しの彼を盗み見ると目が合って、微笑み返された。
たぶん素で出たセリフだ、今の……。
「さ、席に着きましょ」
いつもの調子に戻った土田さんはにっこり笑って私の手を取る。私の歩幅に合わせて完璧なエスコートを披露する土田さんにこの場で拍手を送りたい気持ちになる。
どこまでスマートでかっこいいんだ、この人は。しかもその美しい容姿と相まって言動に嫌味がない。