ハニートラップにご用心
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
大通りから少し外れた高級レストランやホテルが立ち並ぶ通り。商店街とはまた違った雰囲気で、イルミネーションも緑や黄色、紫と少し大人っぽい雰囲気だ。
そびえ立つ高層ビル群にも負けず劣らない迫力の白塗りの建物に通されて私は肩を縮こませていた。
広いロビーの柱の前に飾られたアンティーク調の壺をじっと眺めていると、土田さんに「千春ちゃんの年収でも払いきれないくらい高価なものだから壊さないようにね」と言われて悲鳴を上げそうになった。
というか、そんなものを目利きできる土田さんって一体……。
そうこう考えていると、給仕と思しき黒服の男性の案内で大きな重い扉の向こうに通された。
目の前に広がるのは、ドラマや漫画でしか見たことのない広々とした内装のレストランだった。
床以外全てガラス張りで都内の様子が一望できる。街のイルミネーションが星のようにキラキラ瞬いて見えて、私は目を見開いて感嘆の声を上げた。
「すごい……土田さん!街が全部見えますよ!」
「ふふ、綺麗でしょう?小さい頃、毎年両親とクリスマスにこのレストランに来てたの」
大人になってから来たのは初めてよ、と言って土田さんは、窓ガラスに張り付くようにして景色を眺める私の背後に立った。
ガラス越しに見えた土田さんの表情が少しだけ陰った気がして、私は弾かれるように振り向いた。
「ご両親は、健在で?」
「ええ。でもお互いに仕事が忙しくて、もう何年も会ってないわね」
家庭の事情は人それぞれだ。きっと、恋人の私にだって踏み込まれたくないことはあるだろう。
そう思って私はそれ以上話を広げることはせずに相づちを打って、夜景に視線を戻した。
一生に一度見られるか見られないかのこの景色を目に焼き付けようとじっと見つめていると、ガラスについていた手をうしろから大きな手に包み込まれた。