悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
こうして詰問されることは想定内なので、私は少しも動じずに「なんのことでしょう?」ととぼけて見せた。

王女付きの侍女はオロオロして、「ルアンナ様、どうか落ち着いてください」とレモン色のドレスの腕を撫で、宥めようとしている。


「落ち着いていられないわ。これをご覧なさい!」


王女が侍女に広げてみせた白いテーブルクロスには、白い糸で文字が編み込まれている。

それは王女が編んでいたもので、完成間近なものが居間に置いてあることを私は知っていた。

それで王女が家族と朝食を取っている最中に忍び込んで拝借し、手早く完成させてあげたのだ。

『私は意地悪』という文字を、模様のように編み込んで。


もちろんそれは、アマーリアのドレスを切られたことへの仕返しである。

『やられっ放しではいけない。注意深く相手を貶めて、自分が優位に立つことが大切だ』

それも貴族社会を生き抜くために、父から教えられた処世術だった。


「どうしてくれますの? これはアンドリューズ様への贈り物でしたのに!」


アンドリューズ様とは、ルアンナ王女との縁談を渋っているという他国の王子のことだろう。

レース編みは女性貴族の嗜みで、お淑やかで優しい女性だと思わせる高尚な趣味である。

自分の印象をよくしようという作戦のようだけど、もし私がテーブルクロスに悪さをしなくても、失敗するような気がしてならない。

王女が今、怒りに震える両手で広げているクロスは、私が短時間で編んだ部分だけが見事な仕上がりで、他は目が荒く乱れているのだ。
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