悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「卑しい育ちは隠せないのよ。晩餐会で料理を残さないのはあなたの母親くらいのもの。マナーを知らないのか、それとも食い意地が張っていらっしゃるのかもしれないわね」


それは違う。

晩餐会で全てを平らげることがはしたないとされていることを、もちろん母は知っている。それを承知の上で残すことを嫌うのだ。

それは食べ物のありがたみをよく知っているからであり、悪いことではない。

それに母はもともと少食で、痩せないように無理をして食事をしているほどである。


「お金欲しさに男たちに貢がせていたことも知っているのよ。オルドリッジ公爵も騙されたに違いないわ。クレアさんのお心は真っ黒ですけど、容姿だけは美しくていらっしゃるから」


得意げに母を嘲る侯爵夫人は、唇を噛みしめる私を楽しそうな目で見ていた。

娘の私を口撃することで、母に対して仕返しをしている気分でいるのかもしれない。


仕返しというのは、辺境伯領のことだけではない。

父も母もなにも言わないけれど、社交界に出れば噂というものはおのずと耳に入ってくる。

アクベス侯爵夫人は若かりし頃、有力な父の花嫁候補だったそうだ。

随分と強気に結婚話を進めていた最中に、突然母が現れて、火花を散らした末に父を奪われたと聞いた。

その時はきっと、相当に悔しかったことだろう。

その気持ちはわからなくもないけれど、私は同情できるほどのお人好しではない。

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