悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
目を丸くして驚く私の頬はたちまち熱を帯び、きっとリンゴのように真っ赤に色づいていることだろう。


このキスの意味は、一体なにかしら……。

高鳴る胸に問いかける私が、その答えを見つけるより先に、彼は教えてくれた。


「秘密の場所でカードゲームをしたよね。あのときの戦利品を、今もらったんだよ」


それはひと月半ほど前のことだ。

私の引いたカードには【唇へのキス】と書かれていた。

それが理由だと言われて、振り切れそうなほどの速さでリズムを刻んでいた鼓動はいくらか落ち着き、残念に思っていた。

私に女性としての魅力を感じたから、キスがしたくなったわけではないのね……。


貴族の結婚の条件に恋心などは二の次である。

家柄や身分、利害関係が大切であり、彼が私を花嫁候補の筆頭に位置付け、丁重に扱ってくれるのは、私がオルドリッジ公爵家の娘であるからに他ならない。

そんなことは前々から承知の上で、当たり前のことでもあるのに、なぜか胸を痛めている私がいた。

すると「どうして苦しそうな顔をする?」と心配そうに問われる。


胸の内を表情に出していないつもりでいたが、なぜ気づかれたのか。

「え?」と呟き、思わず自分の頬に手を触れたら、「俺のキスは嫌だった?」と彼が顔を曇らせた。

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