悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
帽子を返してもらって、それを深く被り直し、「あの、早く観客席に参りましょう」と話題を変えれば、「ウブだね」とクスリと笑う彼の楽しそうな声がした。


階段状の観客席には、ゴールラインの真ん前にロイヤル席が設けられている。

そこだけ屋根付きで、豪華なテーブルセットが置かれ、護衛の兵も四隅に立っている。

二人掛けの長椅子に並んで腰を下ろせば、周囲の大勢の視線が私達に向けられるのを感じた。

注目を集めることは予想していたので、特に慌てることはないけれど、ロイヤル席の斜め上の少し離れた席に家族の顔を見つけた私は、「あっ」と呟いた。

父と祖父と、三歳下の弟のウィルフレッドだ。


体を捻って振り向き、目を合わせようとした私に対し、三人は邪魔しないでおこうと話し合ったのか、揃って素知らぬふりを決め込んでいる。

けれども、父の口の端だけはニヤリとつり上がり、至極満足げな様子であった。


王城住まいが始まってしばらくしてから、『娘には結婚前に恋を教えてやりたいのです』と父がレオン様に話していたことを思い出す。

お父様の思惑通りになってしまったわ……。


腹黒い父だけど、私への愛情は伝わってくる。

父の命令に従い、最初は渋々王妃の侍女となった私だったが、今はよかったと思っている。

豪然たる父の顔を眺めながら、レオン様に恋をさせてくれたことに、素直な感謝が込み上げていた。

< 201 / 307 >

この作品をシェア

pagetop