悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「オルドリッジ公爵、しばし馬を拝借します」

楽しそうな声が馬上から降ってくるや否や、気難しい黒馬を華麗に操り、レオン様は広大なダービー場に駆け出して、私と父は感心するばかりだった。


「大したものだ」と腕組みをして唸る父に、「お上手ですわね」と私が同意すれば、「技術だけではないぞ」と不思議なことを言われる。

馬を乗りこなすのに、技術以外になにが必要だというのだろう?

首を傾げた私に父は向き直り、おかしそうに笑って言った。


「あの馬は、本能的に従うべき相手だと理解したから乗せたんだ。殿下は人の上に立つ才がある。まだあどけない頃は、どうしようもない優男だと思ったが、その優しさは人を手懐けるための武力だった。この俺も手懐けられたうちのひとりだろう」

「お父様が……!?」


自嘲気味に笑う父を初めて見る。自虐的な言葉もこれまでに聞いたことがない。

目を丸くしている私の肩をポンと叩き、笑いを収めた父が声を太くした。


「王太子殿下は頼もしいお方だ。オリビア、覚悟してついていけ。なにがあろうと殿下を信じ、一番そばでお前が支えるんだ」

「はい。お父様」


私と同じ琥珀色の瞳が緩やかな弧を描く。

父の命令は絶対で、私が反抗したことは一度たりともない。

けれども今は父の指示だからではなく、私の意志でしっかりと頷いていた。

『なにがあろうと殿下を信じ、一番そばで支える』

その言葉は今の私の気持ち、そのものだ。

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