悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
栗毛の馬は、狐目の男に綱を引かれて、ゆっくりと足を進める。

目線が高くなれば、空に近づけた気がして爽快感を覚えるものだ。

正午に近づき寒さは和らいで、穏やかな日差しが降り注いでいた。

楽しげな笑い声があちこちから聞こえ、ここは平和な娯楽の場。

恐れる必要などないはずなのに、どうして私は不安になるの……?


手綱を引く騎手は、寒いからか左手を上着のポケットに入れていて、馬の顔の左側を歩いている。

私がチラチラと警戒するような視線を向けてしまったら、顔だけ振り向いた彼と視線が合い、「なにか?」と問われた。

「いえ、なんでもないの」と焦って答えれば、なぜか大きなため息をつかれる。

そして「ごめんよ」と彼は小声で呟いた。


その視線は馬に向いているので、謝罪の言葉は私ではなく馬に対するものだろう。

でも、なぜ謝る必要があるの?


怪訝に思い私が眉をひそめたら、彼がポケットに入れていた左手を引き抜いた。

その手はなにかを握りしめているように力が込められていて、突然拳を振り上げたと思ったら、馬の首筋に叩きつけた。


悲鳴のように嘶いた馬に、私は驚いて肩をビクつかせる。

なにが起きたの!?と考える余裕はなかった。

馬は急に苦しがり、首を左右に振って暴れながら駆け出したのだ。
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