炭酸アンチヒーロー
◆ ◆ ◆
それからのことはもう、思い出すのも恥ずかしくて。
なのに自分の五感は、どうしてか、あのときのことを忘れようとはしてくれない。
自分をすっぽり包み込む大きな体。筋張った腕。
顔に押しつけられたユニフォームからする、グラウンドの土と太陽の匂い。
……夏の、匂いだ。
そこまで考えてまた、私はどうしようもなく恥ずかしくなってしまう。
着ているものの匂いがわかるくらい、近づいた。どれだけ照れて悶えたところで、その事実は変わらない。
私今まで、彼氏いたことないし。あんなに男の子とくっついたの、初めてだったんだよ。
頭を両手で抱えながら「うーっ」と小さく唸ることで、何度も繰り返すあの光景を脳内から追い払おうと試みた。
また不思議そうな視線を向けてくる沙頼と佳柄だけど、今度はそれを言葉にすることはなかった。
「……ま、いいわ。それでは今月も、月イチ恒例心理テストいきまーす」
「あーい」
持っていた雑誌をパラパラめくりながら沙頼が言えば、佳柄が片手を挙げて応える。
この雑誌に載っている心理テストをするのが、私たちの間でなんとなく毎月の恒例になっているのだ。
私もちょっと身を乗り出して、続く言葉を待った。