たった一度のモテ期なら。
課長に面白そうに顔を見られてるのを意識して、私のことから話をそらそうと試みる。

「三課の丸野にも、そうやって声掛けたりしました?」

「丸野綾香? きれいな子だよね、彼女も。仕事にキリキリしてなきゃ可愛いんだけどね」

うわぁ、綾香が聞いたら怒りそうなことを言うからちょっとムッとして言い返した。

「包容力のある人がいれば、綾香だって甘えるんだと思いますよ」

「一回りぐらい上とか?」

「綾香はそんなおっさん嫌よとか言いそうですけど。課長ぐらい上なら十分かも、年齢的には」

「年上でも俺じゃ包容力が足りないってことか」

なんとなく不貞腐れたような声色に、あれ?て思った。

「君はぼんやりした子だって聞いてたけど、意外と痛いところついてくるね」

「すみません。私、別に課長を悪く言うつもりは……」

「ま、また誘うから。気が向いたら付き合ってね」

切り替えるように明るく言って、課長は伝票を取り立ち上がった。



付き合ってってなんだろう、さっきのデートとはどう違うんだろう。たぶんこの人はこうやって息をするように女の子に声をかけるんだ。

やっぱり前世はイタリア人とか、いやもしかしたら御曹司という人種はみんなこうなの? 真に受けて面白がられないように気を張っておこう。


< 27 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop