たった一度のモテ期なら。
「影森さーん」
という声に振り返ると、営業一課の先輩が手招きしていた。隣の席の西山も遅れてこちらを振り向く。
自然体、自然体。
あまり接点のない先輩だけど経理に届け物とかあるのかもしれない。
「あの写真でやるやつって二課だけなの?俺たちは?レシート読み込めるとか楽になるよなあ」
「そうですよね。特にトラブルないらしいので、割と早くグループ全社に導入されると思いますよ」
「影森さん、最近忙しそうだよね。経理は年度変わってもまだいろいろあるんだっけ」
「でも決算作業もここまでくると、だんだん下っ端は楽になるんです。何かお手伝いします?」
「いや、こいつ最近チョコもらえなくて寂しがってるからさ」
先輩は座ったまま、隣の西山を軽く指差した。
「あ、ごめんね、バタバタしてて。今何か持ってるかな」
「いや、別にいいって。慌てんなよ」
チロルチョコは最近買ってないが飴があったような気がする。探そうとして、持っていた書類がばらけた。
「落とすぞ」
かがんで耐えようとしたところに西山が手を出してくれて、それで不可抗力的に顔が近づいた。もちろん、なんてことない動きだ。
前に書類を散らばして道で拾ってくれた時だって、西山は支えてくれたし拾い集めてくれた。これは全然全く普通の同期の反応だ。だから、普通にしなきゃいけない。
「やっぱりないかも。今度置いとくね。よかったら先輩にも」
下を向いたまま声だけ明るく言って、失礼しますと何気なさを装ったつもりで営業を出た。
でも多分、全然自然じゃない。
廊下の女子トイレに駆け込んで、鏡を見た。赤くなったりしてない?西山に不審がられてない?大丈夫?
小林くんにはノーガードだったのに、忘れたがっているはずの西山にはこんな反応で、本当に自分にうんざりする。