たった一度のモテ期なら。
「いつも遅くなるお詫びに、今度ご飯でも行こうか」

突然関係ないことを言われて一瞬ひるむ。でも他部署の懐柔策には乗ってはいけないと、課長に常に言われている。

「ありがとうございます。経理課女子全員引き連れてってもいいですか?」

「いや、さすがに無理。せめて20代だけにして」

富樫課長は笑って言うけど、20代って私の他に誰かいたかなという人員配置を知らないわけじゃないでしょう。

「わかりました。そのむね北尾さんにお伝えしますね」

「いや、嘘です。意外と手強いなぁ、影森さん」

とにかく明日までに書類や申請を出してもらえるように了承をもらった。それでも毎月何日かはかかるから、結局今月も日参してせっつく必要があるんだろうなぁ。



隣の営業一課には西山の姿が見えた。隅っこの席の背中に近づいてつつくと、西山はビクッとしてから嫌そうに振り返った。こんなことするのは私だとわかっているんでしょう。

「なんだよ」

「お疲れ様。今日はお昼食べられた?」

「おう」

それだけの会話だけれど、笑ってくれたので満足。西山も好きなはずのチロルチョコをいくつか机に置いてあげた。



「明るくなって帰って来たじゃない、いいことあった?」と北尾さんに聞かれて、これからです、と答えると首を傾げられてしまったけど。

私には秘密のジンクスがある。

西山とこんな風に話した翌日は、物事がスムーズに進むんだ。もしかしたら明日には領収書を回収できるかもしれない。

チロルチョコで幸運を引き寄せてくれる。なんて安上がりで頼もしい同期。



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